アメリカに快勝した森保ジャパン。欧州遠征の目的は個のアピールではなく“ FIFA ワールドカップに向けたチームの総仕上げ”

COLUMN川端暁彦のプレスバック第56回

アメリカに快勝した森保ジャパン。欧州遠征の目的は個のアピールではなく“ FIFA ワールドカップに向けたチームの総仕上げ”

By 川端 暁彦 ・ 2022.9.25

シェアする

「アピール」


この言葉をこれから何度も目にするだろうし、耳にも入ってくることだろう。23日に行われたアメリカ代表との一戦でも、この言葉はしばしば紙上に踊り、映像の中で語られた。


取材において記者やインタビュアーも、しばしば選手に「アピールは?」という言葉を使うし、それを受けて選手からその言葉が飛び出すのも珍しくない。そうなると、こう思ってしまうかもしれない。


「この9月シリーズ最大のテーマは、『どの選手がアピールするか』なんだな」


だが、実態は違う。


この9月シリーズにあえて単純な意味付けを与えるにしても、それは「26人枠に向けたサバイバルレース」ではないだろう。


W杯に向けたチームビルディングのクライマックスではある。そこに「選考」という要素が含まれることは言うまでもなく、選手の意識がそちらに傾く向きは絶対にある。ただ、森保一監督のメインタスクはそこではないはずだ。


もっと言ってしまえば、この段階になって選考がメインテーマになる、つまり誰を選ぶかが定まっていないようでは大問題なのだ。


そして実態としてそんなことはなく、すでに大枠は決まっていると観るべきだろう。いまさら「アピール」の場でもないのだ。呼んだ選手の力量はもちろん、性格などについても指揮官が把握していないなんてことはあるまい。


若手の抜擢は代役の位置づけ


もちろん、けが人の状態や今後出るかも知れないコロナによる離脱者などの可能性も踏まえ、層の厚みは確保しておきたい。それを誰にするのかは流動的な部分があって、今回「試す」要素が皆無ではない。


FW町野修斗、MF相馬勇紀、DF瀬古歩夢と、E-1選手権や東京五輪を経験した若手選手が新たに抜擢されているのはその一環と言えるが、同時に彼らがFW大迫勇也、浅野拓磨、DF板倉滉という負傷者の代役だったことも明らかだ。


過去のW杯を振り返っても、候補全員が怪我なく参加できることはまずあり得ないので、特に24人目以降の枠については流動的だろう。当然、この遠征に期するものがある選手は少なからずいる。ただ、そこは今回のメインストーリーではないのだ。


選考に関しては、選手の好不調を云々する向きもしばしばあるが、9月に好調の選手が11月にも好調である保証はなく、むしろ逆のケースのほうが多いのがサッカーだ。「9月に好調だから選ぼう!」などと決断する間抜けな代表監督はさすがにいない。


あくまでこの9月シリーズの目的は、W杯に向けたチームビルディングの総仕上げ。決して個人の「アピール」ではない。


アメリカに快勝


そして迎えた23日のアメリカ代表戦は、2-0での快勝となった。結果自体に大きな意味はないという見方は正しいと思うが、一方でW杯に向けた雑音を消しておく効果は期待できるだろう。勝ったこと自体を変に悪く見る必要もない。


アメリカとドイツやスペインを比べて「意味がない」という声もあるようだが、この指摘こそ意味のない話だ。


この時期に試合を組める相手は最初から限定されていて、欧州組のコンディショニングと対戦相手の選定も踏まえて、欧州開催にした上で決まった相手である。


ほとんどの選手が国内組だった時代の日本代表であれば、「欧州勢の戦い方に慣れる」といった必要性もあったが、いま中核を占めるのは対戦相手のドイツやスペインでプレーしている選手たちである。そこに力点を置く必要もない。


その上で森保監督の「試したいこと」は見えた試合だったように思う。予選仕様の4-3-3は、やはりドイツやスペインとの戦いを想定すると弱みも多い。不動の軸である遠藤航とポルトガルの名門クラブに移って進境著しい守田英正の両ボランチ、さらに大きく花開いたタレントの鎌田大地を活かすにも、別の形を用意したかったのだろう。4-2-3-1の配置でのゲームとなった。


様々な組み合わせ、配置を試した


左に入った久保建英の特長を活かすだけなら別の配置もあるだろうが、そこは目的ではない。逆足のウイングとして久保を置いてしまえば、自ずとトップ下でスペースを得て輝く鎌田の個性とバッティングするのは明らかで、「両雄並び立たず」を避けるための術策として理解できるものだったと思う。実際、二人の関係性は悪くなかったし、間違いなく鎌田の個性は活きていた。


こうした配置や組み合わせを「試行する」ことが主眼だったのは明らかで、後半は伊藤洋輝と吉田麻也が初めてセンターバックコンビを組み、冨安健洋が右サイドバックでプレーする形もあった。


終盤には原口元気を投入しての5バックへのシフトチェンジも見せたが、“三笘薫単騎突撃”で刺しに行ったところも含めて、意図は明らかだった。


途中から投入された選手たちも身勝手に「アピール」しようとして空回りするような間抜けはおらず、しっかりと自分のタスクを全うしていたのも印象的だった。


外野の声は「アピール」「サバイバル」と騒がしいが、チームと選手はそれに惑わされることなく、W杯へ向けた総仕上げに入っている。アメリカ戦はそんな印象を強くする好ゲームだった。(文・川端暁彦)


写真提供:getty images

シェアする
川端 暁彦

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『サッカーマガジンZONE』『月刊ローソンチケット』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行

このコラムの他の記事

おすすめ動画