この男、どうやったら止められるのだろう。
決勝トーナメント1回戦、フランス対ポーランドはキリアン・エムバペの一人舞台になった。
超S級アタッカーはポーランドの守備ブロックを無効化
まずは前半10分、左サイドのライン際で左サイドバックのテオ・エルナンデスからパスが来ると、エムバペはトラップせずに一気に急加速。ポーランドのカミンスキ(ヴォルフスブルク)とキャッシュ(アストンヴィラ)を一気に抜き去り、左足でクロスをあげた。ファーサイドで待っていたデンベレのシュートはDFにブロックされてしまったが、エムバペの圧倒的なスピードがチャンスを生み出した。
ポーランドはレバンドフスキを頂点にした4−5−1を採用し、現代サッカーで主流になっているコンパクトな守備ブロックを築いた。中央のパスコースを閉じることを優先し、サイドへのパスはボールが出てからアプローチすればいいという考え方である。その硬い守備によってメキシコと引き分け(0対0)、サウジアラビアに勝利し(2対0)、C組を2位通過した。
だが、それはあくまでA級レベルのアタッカーを想定した守備理論である。超S級のエムバペには一切通用しなかった。エムバペは0.5秒でも時間があれば、ボールを前に転がして爆発的なスプリントを仕掛けられるからだ。この23歳の高速アタッカーは何度も左サイドを切り裂いた。
スピードだけじゃない!正確なプレイ
そしてエムバペの武器は走る速さだけではない。「止める蹴る」が正確かつしなやかでプレースピードも速い。だからゴール前のスペースが限られた状況でも、特別な輝きを放てる。
前半44分、フランスはパス回しでポーランドをペナルティエリア前に釘付けにすると、センターバックのウパメカノがペナルティーアーク横付近から降りてきたエムバペに縦パスを通した。
キャッシュがたまらずDFラインから飛び出してエムバペにアプローチすると、それによって生まれたギャップにセンターFWのジルーが移動。エムバペがそこにどんぴしゃのパスを通し、ジルーの先制点が生まれた。
前半終了間際にリードしたことによって、もはやフランスは無理に攻める必要はない。後半はエムバペのカウンター祭りになった。
サッカー理論が通用しないレベル
後半29分、フランスはポーランドのクロスからの攻撃をしのぐと、グリーズマンが自陣ペナルティエリアから左足で大きく前線にクリアした。カウンターの発動だ。
グリーズマンのクリアはどんぴしゃでセンターライン手前にいたジルーに渡り、その瞬間に左のエムバペと右のデンベレが前線へのスプリントを開始する。
ジルーは右のデンベレに展開し、そのままゴール前に走り込んだ。するとポーランドの守備陣3人はその動きにつられ、左でエムバペが完全にフリーになった。
右のデンベレが左のエムバペにパスを通すと、ポーランドの両センターバック、グリク(ベネヴェント)とキヴィオル(スペツィア)が慌ててシュートコースを消しに行ったが、エムバペには約2秒間、じっくりとGKを見る時間ができた。
それだけの時間があれば、エムバペにとって敵はいないも同然なのだろう。エムバペはわずかに空いていたニアのコースに向けて右足を振り抜き、ゴール左上にダメ押し点を突き刺した。
さらに後半46分、エムパベはテュラムからのマイナスのパスをペナルティエリア内やや左で受けると、今度はファーポスト側にシュート。ボールは名手GKシュチェスニー(ユヴェントス)の右手を吹き飛ばしてネットに吸い込まれた。
フランスは後半54分にレバンドフスキにPKを決められたものの、エムバペの2得点1アシストの活躍によって危なげなく3対1で勝利。準々決勝進出を決めた。
現代サッカーの守備理論は、もはやエムバペには通用しない。あらゆるスピードで相手を凌駕するこの男がいれば、W杯2連覇も夢ではない。(文・木崎伸也)
FIFA ワールドカップ 2022 - ラウンド16 ランス 3-1 ポーランド
【得点者】
ジルー(フランス) 前半44分
エンバペ(フランス) 後半29分
エンバペ(フランス) 後半45+1分
レヴァンドフスキ(ポーランド) 後半45+1分
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11月20日に開幕したFIFAワールドカップ カタール2022もラウンド16に突入。22回目となる今大会は史上初めて中東での冬季開催となっている。1試合の交代枠が5人、登録選手も各チーム26人とルール変更もあり、判定にも半自動オフサイドテクノロジーが導入される等、新たなFIFAワールドカップとして記憶される大会となりそうだ。
日本はFIFAワールドカップ フランス 1998から7大会連続7度目の出場、2002、2010、2018の3大会でベスト16に進出している。初のベスト8進出という目標を掲げて挑む森保ジャパンだが、ドイツ、コスタリカ、スペインと同居するグループリーグは過去最高に厳しい組み合わせとなった。しかし、優勝経験国であるドイツ、スペインを撃破し世界を震撼させての1位通過を決めた。『新しい景色』を目指してクロアチアと対戦する。
◇決勝トーナメント ラウンド16(全て日本時間)
12/4(日) 0:00 オランダ vs アメリカ
12/4(日) 4:00 アルゼンチン vs オーストラリア
12/5(月) 0:00 フランス VS ポーランド
12/5(月) 4:00 イングランド VS セネガル
12/6(火) 0:00 日本 VS クロアチア
12/6(火) 4:00 ブラジル VS 韓国
12/7(水) 0:00 モロッコ VS スペイン
12/7(水) 4:00 ポルトガル VS スイス
◇日本戦情報
決勝トーナメント 第1戦 日本 vs クロアチア
12月6日(火) 日本時間 00時00分 キックオフ
フジテレビ系列、ABEMAで生放送・配信予定